[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
伊豆の南、温泉が湧き出ているというだけで、
他には何一つとるところの無い、
つまらぬ山村である。
戸数三十という感じである。
こんなところは、
宿泊料も安いであろうという、
理由だけで、
私はその索寞たる山村を選んだ。
君は黙ったまままじまじと目を光らせながら、
私の言う事を聞いていた。
私が言いたい事だけをあけすけに言ってしまうと、
君はしばらく黙りつづけていたが、
やがて口のすみだけに始めて笑いらしいものを漏らした。
それがまた普通の微笑とも皮肉な痙攣とも思いなされた。
輸入ことに父なきあとの一人の母、
それだから省作はもう母にかけてはばかに気が弱い。
のみならず省作は天性あまり強く我を張る質でない。
今母にこう言いつめられると、
それでは自分が少し無理かしらと思うような男であるのだ。
むかし湖南の何とやら郡邑に、
魚容という名の貧書生がいた。
どういうわけか、
昔から書生は貧という事にきまっているようである。
この魚容君など、
氏育ち共に賤しくなく、
眉目清秀、
容姿また閑雅の趣きがあって、
書を好むこと色を好むが如しとは言えないまでも、
とにかく幼少の頃より神妙に学に志して、
これぞという道にはずれた振舞いも無かった人であるが、
どういうわけか、
福運には恵まれなかった。