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熱海で伊東行の汽車に

熱海で、伊東行の汽車に乗りかえ、伊東から



下田行のバスに乗り、
伊豆半島の東海岸に沿うて三時間、
バスにゆられて南下し、
その戸数三十の見る影も無い山村に降り立った。

ここなら、
一泊三円を越えることは無かろうと思った。

しかも浅はかな私ら人間は猿と同様に物忘れする。

四年五年という歳月は君の記憶を私の心からきれいにぬぐい取ってしまおうとしていたのだ。

君はだんだん私の意識の閾を踏み越えて、
潜在意識の奥底に隠れてしまおうとしていたのだ。

輸入しかしそれが破縁して気の毒だという場合には、
多くの人がさも心持ちよさそうに面白く興がって噂するのである。

あんまり仕合せがよいというので、
小面憎く思った輩はいかにも面白い話ができたように話している。

村の酒屋へ瞽女を留めた夜の話だ。

早くこの黒衣を着なさい。

ふわりと薄い黒衣を、
寝ている魚容にかぶせた。

たちまち、
魚容は雄の烏。

眼をぱちぱちさせて起き上り、
ちょんと廊下の欄干にとまって、
嘴で羽をかいつくろい、
翼をひろげて危げに飛び立ち、
いましも斜陽を一ぱい帆に浴びて湖畔を通る舟の上に、
むらがり噪いで肉片の饗応にあずかっている数百の神烏にまじって、
右往左往し、
舟子の投げ上げる肉片を上手に嘴に受けて、
すぐにもう、
生れてはじめてと思われるほどの満腹感を覚え、
岸の林に引上げて来て、
梢にとまり、
林に嘴をこすって、
水満々の洞庭の湖面の夕日に映えて黄金色に輝いている様を見渡し、
秋風飜す黄金浪花千片かなどと所謂君子蕩々然とうそぶいていると、
あなた、
と艶なる女性の声がして、
お気に召しまして?見ると、
自分と同じ枝に雌の烏が一羽とまっている。

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